現在では、脳卒中が起こったら一刻も早く、救急車で病院に運ぶことは常識になっています。でも、1996年までは、いったん脳卒中が起こると根本的な治療法はありませんでした。ご存知の通り、日本脳卒中協会は1997年に発足しましたが、その頃欧米では、起こって3時間以内の脳梗塞では、米国製の新しい血栓溶解薬、rt-PA(アルテプラーゼ)が明らかに有効であるとして、世界で初めて使用され始めていた頃です(残念ながら日本では、英国製の薬品で治験を行っていた為、特許の問題で継続できなくなり、遅れを取っていました)。 日本でも間もなくその薬が認可される可能性が高くなり、一般の方々にも「ACT FAST(一刻も早く受診しよう)」の教育が必要という状況になっていました。一刻も早く受診するには、脳卒中が起こった時の症状や徴候を良く理解しておかなければなりません。同時に、脳卒中を起こさない為には、高血圧や糖尿病のような危険因子のことも理解して貰うことが大切で、どうしても積極的な市民の皆さんへの教育が必要になってきました。 当時は一般に、「学会」は学問をするが、市民教育は余りしない」という風潮がありました。そこで、市民の皆さんを対象に色々な活動をするグループが必要という考えが専門家の間にも起こってきたのです。中でもデンマークに留学して実際に市民教育の大切さを体験してきた中山博文先生が実務を担当し、脳卒中の臨床の大御所であった故亀山正邦先生(京都大学神経内科名誉教授、住友病院院長)が会長、小生が副会長として、1997年に発足したのが任意団体としての「日本脳卒中協会」です。 各都道府県の専門家に、我々の目指すところを呼びかけ、支部を設置して市民教育を中心とした活動を始めました。そして、毎年、いずれかの都道府県で、日本脳卒中協会主催の市民公開講座を開催して、市民教育に務めて参りました。2005年に「社団法人」として、2012年に「公益社団法人」として認可され、国のお墨付きを頂いた次第です。 2007年に「がん対策基本法」が施行されたのをきっかけに、脳卒中に関しても基本法に基づいた理想的な医療が行われるように、「脳卒中対策基本法」の制定を目指すことになりました。その後の協会の第一の努力目標は、「基本法制定」として活動を続けた次第です。その後、紆余曲折はありましたが、2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」として国会を通過し、翌2019年12月より施行されたのはご存知の通りです。 基本法が施行されたからと言って、直ちに脳卒中行政が変わるわけではなく、まだまだ完全なものではありません。皆さんのご協力のもと、よりよい「基本法」を目指して、新しい体制のもと日々努力していくことをお伝えして、25年目のご挨拶に替えさせて頂きます。公益社団法人 日本脳卒中協会 顧問(前理事長)国立循環器病研究センター 名誉総長 山口 武典ごあいさつ
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