日本脳卒中協会 創立25周年記念誌
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日本脳卒中協会顧問(前理事長) 山口 武典(国立循環器病研究センター 名誉総長) 挨拶で述べたように、過去25年間の協会の大きな使命の一つは「脳卒中・循環器病対策基本法」制定でした。法制化までには、まさに苦節10年という言葉が最も適切だと思います。尾辻議員、石井議員を始めとする党派を超えた国会議員の皆様、厚労省健康局の職員、中でも課長補佐クラスの方々、脳卒中学会会員の皆さん、リハビリテーション関連の諸団体の皆さんの大変な努力によって、2018年12月に国会を通過しました。しかし、これに至る10年間は、まさに紆余曲折、荊の道の連続でした。国会で審議される予定の臨時国会が、突然の衆議院解散により振出しに戻ったこと、東北地方太平洋沖地震による政治の混乱などのため、なかなか国会の場で審議して貰えなかったことなど、それに加えて、いざ国会審議というときになって、確固とした根拠もなしに法案に反対する野党議員の動きなど、ひやひやの連続でした。 基本法は2019年12月1日より施行され、翌2020年1月に「循環器病対策推進協議会」が発足し、数回にわたって会合が開かれている様ですが、COVID-19の影響もあり(厚労省職員がコロナ対策に追われた)、必ずしもまだ円滑には進んでいないようです(委員ではない為、詳細は不明)。これで「万々歳」というわけではありません。6年後までには法律の見直し・改訂が可能となるので、協会としては、それに向けて万全の準備を整えておく必要があります。①最も気になるのは法律の略称です。正式には「健康寿命の延伸を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」ですが、厚労省では「循環器病対策基本法」という略称が用いられています。脳卒中は脳の血管に異常(閉塞、狭窄、破綻)が生じて起こる病気ですが、起こって来るのは神経系統の症状、徴候です。その為、多くの教科書では神経疾患の中に記載されてきました。WHOによる疾病の国際分類(ICD)は一定期間ごとに改定されますが、最新の ICD-11では、脳卒中はこれ迄の循環器疾患から外れて、神経疾患に分類されることになっています。わが国ではまだICD-11は適用されていませんが、近い将来必ず適用されることになる筈です。その為、略称にも配慮する必要があり、推進協議会でもこの件について真剣に議論して貰わねばなりません。②「がん対策基本法」と同様、義務教育の中で、脳卒中・心臓病を児童・生徒教育の中に取り入れて貰うよう運動を展開する必要があります。これは家庭での知識の普及に大いに役立つことになり、極めて重要なことです。 出来たばかりの法律ですので、仕方がないことかもしれませんが、他の疾病分野、例えば、がんを含む悪性新生物、肝臓病などに比べると、予算は格段に少ないです。今後の増額に向けて努力していかねばならないと思います。みんなの努力で折角できた「基本法」です。最大限に活用して、国民の健康寿命の延伸のために役立つよう、みんなで努力していきたいと考えています。―「脳卒中対策基本法」から「脳卒中・循環器病対策基本法」へ基本法に込めた思い

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