日本脳卒中協会 創立25周年記念誌
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  組織プラスミノーゲンアクティベータ(以下rt-PA)を用いた経静脈的血栓溶解療法が導入されてから、市民が脳卒中発作時の症状を理解し、直ちに医療機関を受診することが重要となりました。これはrt-PA静注療法には発症後4.5時間以内(2012年8月末までは3時間以内)という使用制限時間があるためです。そのため症状発現時に「一晩寝て様子を見よう」というような行動を取らないようにする必要があります。しかしどのような啓発を行えば効果があるのかわが国での検証は不十分でした。そこで日本脳卒中協会は、Awareness about Stroke Knowledge (ASK)研究 として、2006年に、秋田市、呉市、静岡において脳卒中発症時の主要5症状などについての知識、情報源などに関する調査を行いました。3地域から40〜74歳の男女約5540人を無作為抽出し、これらの対象者にチラシ・小冊子、講演会を組み合わせた市民啓発を行いました。市民啓発は3地域で強度を変えて行い、秋田市ではチラシ11回・小冊子2回の各戸配布と13回の講演会、呉市ではチラシと小冊子各1回の各戸配布と5回の講演会、静岡市では特に啓発は行いませんでした。2008年度に再度、知識調査を行い、3,926人から回答をいただきました。一次調査の5症状完答者及びデータ欠損等を除く2,734人中、脳卒中の主要5症状を新たに完答できるようになった人は、秋田で22.8%、呉で18.5%、静岡で18.6%でした。関連する要因を統計的に調整すると、秋田では静岡と比べて35%完答者が増えたと考えられました。残念ながら呉で行ったような軽度の啓発では効果は認められませんでしたが、チラシをポスティングするという古典的な手法でも市民の知識を向上させることができることがわかりました。この事業は以後の日本脳卒中協会の大規模啓発事業のモデルケースとなりました。日本脳卒中協会 理事・啓発委員会委員長 岡村 智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授)注)ASK研究の論文:1) Miyamastu N, et al. Cerebrovasc Dis 2013; 35: 241-249; 2) Morimoto A, et al. Stroke 2013; 44: 2829-2834; 3) Nishikawa T, et al. J Epidemiol 2016; 26:115-22.「秋田・呉・静岡啓発効果比較研究(ASK study)」調査、研究、効果、検証 

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